砂漠の小舟
剧情简介
東京の地下に蠢く即興表現者たちの鮮烈なドキュメンタリー
即興音楽の魅力はレコードやCDだけでは100%は伝わらないと思う。音を生むパフォーマーの身体の動きや空気感や温度感を五感で感じることは、聴覚のみのレコード/CDとは全く異なる体験である。もちろん音楽のみを聴取することで想像力が刺激され、ライブ演奏とは別の感動を味わえることは確かだが、それはライブ・パフォーマンスの代替えにはなり得ない。レコード聴取とライブ体験は次元の異なるエンターテイメントなのである。とりわけジャンルやスタイルに限定されない有象無象の地下音楽の表現活動は、生のパフォーマンスに触れなければ、その存在すら知りえない場合がほどんどである。70年代末の日本の地下音楽の発祥の地として知られる吉祥寺マイナーで当時開催されたライブでは、観客数が演奏者の人数より少ない場合が多々あったという。筆者... (展开全部)
東京の地下に蠢く即興表現者たちの鮮烈なドキュメンタリー
即興音楽の魅力はレコードやCDだけでは100%は伝わらないと思う。音を生むパフォーマーの身体の動きや空気感や温度感を五感で感じることは、聴覚のみのレコード/CDとは全く異なる体験である。もちろん音楽のみを聴取することで想像力が刺激され、ライブ演奏とは別の感動を味わえることは確かだが、それはライブ・パフォーマンスの代替えにはなり得ない。レコード聴取とライブ体験は次元の異なるエンターテイメントなのである。とりわけジャンルやスタイルに限定されない有象無象の地下音楽の表現活動は、生のパフォーマンスに触れなければ、その存在すら知りえない場合がほどんどである。70年代末の日本の地下音楽の発祥の地として知られる吉祥寺マイナーで当時開催されたライブでは、観客数が演奏者の人数より少ない場合が多々あったという。筆者の著書『地下音楽への招待』では、そうした地下音楽シーンの場を創造したキーパーソンへのインタビューを手掛かりとして80年代アンダーグラウンド・カルチャーの存在を現在へ伝えようとした。その時代から40年が経ち、文字や音声はもちろん映像の記録が容易になり誰でもネットを通して発表することが当たり前になった現代、地上も地下も区別なくあらゆるカルチャーが洪水のように世界中に溢れている。情報の海に溺れるしかない現代は、80年代よりも地下文化に触れることが難しくなったのかもしれない。
そんなことを考えていたら、思いがけず東京の音楽シーンの最深部で活動する即興音楽家たちのドキュメンタリー映画が公開された。2020年末~2021年初頭に高円寺のライブハウスFourth FloorとFourth Floor IIでのソロ、デュオ、トリオの演奏を撮影したもの。筆者が足を運んだ2020年12月19日Fourth Floorでの「師走の今豚(Kong-Tong)」と題されたイベントも含まれている。川口雅巳 (g) + 山澤輝人 (ts)、ルイス稲毛 (b) + 佐伯武昇 (perc) + 飛び入り:川島誠 (as)、橋本孝之 (as, hca)の3組が出演し、コロナ禍が続く中で演奏できることを謳歌するような生命感に満ちた演奏が繰り広げられた。筆者が観た生前の橋本の最後のライブでもあった。
ナレーションや語りはおろか、演奏者名以外のテロップもほとんどなく、一組10分前後の演奏シーンが淡々と描かれる。演奏者の身体の動きを追いながら、表情(顔だけでなく手や足や楽器も)をクローズアップするカメラワークは、まるで観客の視線の動きに沿っているようだ。時にレッドゾーンに振り切れて割れそうになる荒目の音質は、実際にライブ会場で体験する音響に近い。音楽にストーリーはないが、ピックアップされた演奏場面の緩急が映画全体の流れを作りだしている。瞬間に生きる即興演奏家の気迫が生々しく伝わり、“行き過ぎることを恐れない”地下音楽の本質を実感できる、まさに体験する即興ライブ・サウンド・ドキュメンタリー。テレビやパソコン画面ではなく、映画のスクリーンで観てこそリアルな体験ができるはずだ。